[2]D 引当金の算定
公益社団・財団法人における引当金は、主に「退職給付引当金」「役員退任慰労引当金」を計上するケースが多く見受けられます。他にも「賞与引当金」「貸倒引当金」を計上していることもあります。
以前の特例民法法人では、「調整引当金」のような名目で、利益が生じた事業年度にその利益を減額するために同額の引当金を立てている法人が頻出していました。引当金は、次の4要件のいずれを欠いても計上できないものになりますから、これらの要件を満たさない不適正な計上は行ってはなりません。
イ 将来の特定の費用又は損失に備えたものであること
ロ その発生が当期以前の事象に起因すること
ハ その将来の特定の費用又は損失の発生の可能性が高いこと
ニ その金額を合理的に見積もることができること
退職給付引当金
就業規則又は退職金規程において退職金の支給を定めている法人は、事業年度末の退職給付の見積債務を算定し、退職給付引当金を計上します。ただし退職年金資産があるときは、これを控除した金額を計上することとされています。
退職給付の対象となる職員数が300人未満の法人については、ほとんどの場合原則的な方法に代えて自己都合退職による期末要支給額により算定しています。職員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に高い水準の信頼性が得られない法人や、原則的な方法により算定した場合の額と期末要支給額との差額に重要性が乏しいと考えられる法人についても、自己都合退職による期末要支給額により算定することができます(20年基準 運用指針5)。
なお懲戒解雇などにより退職給付引当金の一部を支給しないことになった場合は、その金額を「経常外収益」に戻入計上しますが、当該額は、行政庁に提出する「事業報告等に係る提出書類」別表Bにおいて費用から控除して公益目的事業比率を算定するので、十分注意が必要です。
【仕訳例:事務局職員の退職給付引当金10,000を計上します。ただし従事割合は公益目的事業60%、収益事業等30%、管理業務10%とします。】
(公益目的事業会計) (借)退職給付費用6,000/(貸)退職給付引当金6,000
(収益事業等会計) (借)退職給付費用3,000/(貸)退職給付引当金3,000
(法人会計) (借)退職給付費用1,000/(貸)退職給付引当金1,000
役員退任慰労引当金
役員報酬支給基準(又はこれに準ずる規程)により、役員退任慰労金の支給制度を設けている法人は、事業年度末の役員退任慰労金の見積債務を算定し、退職給付引当金を計上します。
なお何らかの理由で、役員退任慰労引当金の一部を支給しないことになった場合は、その金額を「経常外収益」に戻入計上しますが、当該額は、行政庁に提出する「事業報告等に係る提出書類」別表Bにおいて費用から控除して公益目的事業比率を算定するので注意が必要となります。また役員退任慰労引当金については、当該役員が事業部門の業務にも兼務している場合であっても、法人会計にしか計上を認めないとしている都道府県もあるので留意していただく必要があります。
賞与引当金
賞与の支給対象期間が当事業年度と翌事業年度にまたがる場合は、その賞与を支給時の事業年度に全額費用で処理しません。翌事業年度に支給する予定の職員の賞与であっても、その支給予定額のうち当事業年度に帰属する見込み額について費用計上する必要があります(公益法人会計基準に関する実務指針(その2)Q12)。
【仕訳例:事務局職員の賞与引当金10,000を計上します。ただし従事割合は公益目的事業60%、収益事業等30%、管理業務10%とします。】
(公益目的事業会計) (借)賞与手当6,000/(貸)賞与引当金6,000
(収益事業等会計) (借)賞与手当3,000/(貸)賞与引当金3,000
(法人会計) (借)賞与手当1,000/(貸)賞与引当金1,000
貸倒引当金
受取手形、未収金、貸付金等の債権については、取得価額から貸倒引当金を控除した額をもって貸借対照表価額とする(20年基準 第2-3(2))とされています。
なお、貸倒引当金を翌事業年度において戻入した場合は、その金額を「経常外収益」に計上します。当該額は、行政庁に提出する「事業報告等に係る提出書類」別表Bにおいて費用から控除して公益目的事業比率を算定するので、十分注意が必要です。
【仕訳例:収益事業等の未収金につき、貸倒引当金500を計上します。】
(収益事業等会計) (借)貸倒引当金繰入額500/(貸)貸倒引当金500